クリエイターインタビュー

安彦良和さん
安彦良和さん
今回はアニメを始めとするクリエイティブとAIの関わり方についてお伺いできればと思っております。
安彦さん
今、本業は漫画家なので、アニメの話をするのには非常に不向きなんですよ。
最近のアニメ事情も詳しく知らないしね。
ではアニメスタッフというよりは、本業の漫画家としてお伺いできればと思います。
絵を描くというクリエイティブな部分とAIが共存していく道はありますでしょうか?
またはどのように関わっていったら良いと思われますでしょうか?
安彦さん
僕はアナログなもので、未だにスマホも持たないぐらい。携帯電話だって相当抵抗していたんです。公衆電話が世の中から消えて、焦って携帯に。それくらい遅れているんです。
ただ、今のAIに関する話を聞いていて思うのは、意外と進んでいないんだなって。
もうどんどん進んじゃって、人が要らないようになりつつあるのかなと思っていたんだけど。
安彦さんは作画を行う時にデジタルツールを使おうとは思わなかったのでしょうか?
安彦さん
1回も思わなかった。やり方を覚えている間に自分でやってしまおうという感じ。
大分前にちょっと習おうかなと思った時期が一瞬だけあったんだけど…20年前かしら、まだ50代で若かったんだけど、その時、CG関連の人に「今から覚えても無理ですよ」とか言われて。技術もいろいろある訳じゃないですか。「今から覚えて、その技術レベルの一番下の方にくっついていっても意味ないですよ。トップに行くには年を取り過ぎた」とCG関連の人に言われて、「ああ、そうだな」と思って。こっちも無駄に時間を作って教えてもらうよりも、自分でやってた方が早いというので、全てその調子。
最近はアニメの監督もされていたかと思います。
 今の作画についてお気づきの点はありますでしょうか?
安彦さん
今は少しアニメとの関わりも出てきて、パソコンは触るぐらいはできるのでたまにネットで(アニメを)観るんですよ。たまたま目に飛び込んできたものを「これ聞いたことある。観てみよう」とか。
そうすると「このレベルでやってるんだ。凄いな!」というのもあるし、「名前は聞いてるけど、これか?」というのもある。その落差が非常に激しいね。
昔も良いものと酷いものはあったけど、ある意味非常に良いものが大変なレベルまでいっちゃっているでしょ? これ作るの大変だったろうなと。
で、酷いものは昔通りで、天地の差が相当開いているなという感じがあるね。
人手不足もあり、そういった作画クオリティの差が開いていっている中で、 補助ツールとしてAIが使えないかと思っているのですが、その辺りはいかがでしょうか?
安彦さん

AIを活用したテスト動画とかを観てみたりすると、言いたい事もあるっちゃあるんだけども…人手不足でね、クオリティが低いレベルで情けないものを作っている現状を踏まえると、AIが底上げしてくれるかもというのは十分期待できるんじゃないかね?

今、業界で可哀そうなのは動画さんなんだよね。
アニメ業界がブラックで(給料が)安くてって問題になるんだけど、その場合にその対象としてどうしてもピックアップしなきゃいけないのは動画さんの問題なんです。
動画さんの場合、動画作監がいて、結構何人もあてがうけども、直し切れない状況がある訳だ。でも、それでも動画自体は上げないといけないから、事実上動画は“後ろがない仕事”という事になる。後ろがないパートが可哀そう。で、ギャラが安い。

それと作画監督もある意味後ろが無い仕事で、作監料が安いから誰もなり手が無くなってきた訳だ。 で、上手い人が「作監やらねぇ~」「作監込の原画ならやる」って。 ギャラは安いし、一生懸命直しても作監料しか入らない。それは僕の現役の頃からあった。

今は少しずつギャラの面も改善されてきているようです。
安彦さん

ちょっと小耳に挟んだレベルだけど、原画は結構良いギャラになって来ていますね。
あと、演出もそうだよね。
昔は演出っていうのは何よりも安かったですよ。演出じゃ食えないっていうね。
僕が演出になった時に、富野由悠季から「やめた方が良いよ、原画が一番良いんだよ」って言われてね。いろいろ話を聞くと「富野由悠季は正しかった」ってね。

その後拘束料とか出てきて、アニメーターのギャラの問題は原画に関しては、ある程度解決しているんじゃないかって思うけどね。
動画がとにかく大変で、世間から見て「給料なんぼ?」って聞いて、少ない金額出されたら「やめな、そんな仕事」ってなっちゃう。

例えばAIのツールをペンと紙と同じように使って、頭の中のイメージをアウトプットする手助けをしてくれるとなったら、それを使って何か作品を作ってみたいと
思われますか?
安彦さん

いや、自分としてはそれを使ってみたいとは思わないけど…でも、アニメ制作としてはいろいろサポートしてもらうことはできるんじゃないかなと思うよね、今すぐにでも。
例えば中割なんかをやってくれるんであれば、どんどんやってもらえば良いと思う。
その間に作り手は芝居の勉強したりとかしてね。
アニメーションの基本は「流れ」だから。中割は機械的な動きだから、手伝ってっていう。

あとは漫画なら枠線引いたり、ベタを塗ったりね。
今はスクリーントーンも消えちゃって…僕はスクリーントーンが廃盤になるの辛かったんだけど…でも今、貼ってる人いないんじゃないの?
昔はカケアミできないと漫画家になれないよって言われて、僕も「アレができないと漫画家でやっていけないから、アニメーターで食っていこう」って思ったところもある。でも今カケアミなんて誰もやらないでしょ?

そういった部分も含め、AIにお手伝いしてもらえるんじゃないの?
だから、むしろ遅いなって感じがするね、「まだそのレベルなの?」って。

先程お話のあったように、例えばアニメであれば、AIのサポートを受けてより芝居を学び、そこに注力する事もできるようになるのではと思っています。
安彦さん

人が「ここはこういう風な方がいいんじゃない」って、(AIが作ったものを)校正していけばいいんじゃないかっていう。

昔、大学の講師をしていたことがあって、そこでアニメーションについて学生に教えていたことがあるんだけど、その時にビックリしたことがあって、まず漫画家やアニメーションをやりたいと言っているのに、絵が描けない学生が多い。
写生をやらせようとしても写生ができない。構図を取るという事もできない。まず絵になっていない。そいつらが自主アニメを作るんですよ。“放課後の教室でラブラブ“ってやつを。

で、それを観たら放課後の教室に西日が入っていたりなんかしてね、「お前、写生できないのによくそんなの描けたね」と聞いたら、学生が「そういうソフトがあるんです」って(笑) 
「ああ、そうなの。絵描けなくても良いんだ」って。それでもいい感じのものが作れるんですよ。

動きなんかも教えてアニメーションさせたんだけど、学生がシート(タイムシート)を付けるのを嫌がるんです。 今だとソフトの再生ボタンで再生できるので、それで「走ってる走ってる」って喜んでいる訳ですよ。 僕は「これ、シートでちゃんとやれよ」って思うんだけど、でも(学生たちは)すぐ再生できて楽しめて満足できちゃう。 なら「楽しいんだったらいいか」って思ってね。
なんだか僕が無駄なことを言っているみたいでアホらしく思えたんだけど、その時思ったのがね、シートって偉大だなって思ったんだ。
ちゃんとシートができて、ちゃんとこだわりを持ってるアニメーターなら、それこそ「ここでちょっとためて1呼吸やって、髪の毛はここで」とか、シートで表現するんですよ。
 「何コマ残して」とかね。ちょっと躓くとかもできるわけです。
「それができる」ということを気づかないでも、今はこれでいけちゃう、「走ってればいいじゃん」という感じで。 だからそれ以上深まらないわけです。
それ以上やろうとしたら、やっぱシートを付けなきゃいけない。「ここだけは1コマにすべきだったな」とかね。それはシートを付けなきゃ分からない深みで。
だからシートっていうのは相当アニメーターのこだわりが表れていたんだって。

機械に任せているだけだと、「動いちゃえばいいか」とかになるんで。
ましてやモニターで観たら「いいじゃん、どこいけないの?」ってなっちゃう訳ですよ。
故にシートというプロセスが必要なくなっちゃうんです。

だから本当に真面目なアニメーターがシートで格闘しているってのは“深い”んだって。
今はそこを経過しないでもできちゃう。AIもそこを平気で通過できちゃう。
でも、それでも良い場合も随分あるんで。こだわってなければね。
プロのクリエイターとしてのアニメーターはこれからも育って欲しいと思うけど、ただ単純な消費労働であれば代行してもらえば良いと思う。

最近のアニメ制作では、限られた制作期間の中でかなりの人数が関わる事が多くなってきています。多くの人が関わることで、逆に1人が作品に向き合う時間が
必然的に減ってしまいがちになっています。
安彦さん
この前観た作品だと、絵コンテが3人いて、作監が5~6人いた。原画もずらっといて、何やってんだろう、こいつらって。
関わる人が増えて、「無理に1カットやってもらった」とかいってね。
目の前の作業をこなすことがメインになっていて、作業者の学びやフィードバックが手薄になってきている状況もあると思います。結果、新人が育ちにくい環境が生まれて
いるような状況になっている中、関わる人数を減らす方向で最適化できれば、そういった教育面にも力が入れられると思うのですが、いかがでしょうか?
安彦さん

作業者本人も、自分が名刺代わりになるような実績が作れない状況になっちゃっていて…。
「昔は」って言って良いことなんかないから、あんまり「昔は」って言うのは嫌なんだけど、フリーの原画だったら「何やってたの?」って聞いたら「あの作品の何話の前半をやりました」とかね。 それで「前半良かったね」なんて言って、それで判る訳ですよ。

当時は大体、前後半の半パート出来なかったら相手にしてもらえなかったですから。
でも今は「前半の2カットやりました」って言われても、「どれ?」ってなってしまう(笑)

それだと本人のためにもならないし、名刺代わりにもならなくなっちゃう。
本人も「俺、どこをやったんだろう?」って、自覚もなくなっちゃうしね。
それは誰も幸せじゃないでしょう?っていう。

それを改善するためにも、省けるところは省いていくことは必要なのかもしれません。
安彦さん
昔やった作品で、今から見たらスタッフロールが短くて「え、原画これだけ?」っていうのがある。
それは僕が「若手でやろう」って決めて。 それは原画というか、ほとんどは原画予備軍みたいな連中だったけどね、それでやろうと。
今でいう1原は僕がやって、2原は若手がやらせるっていう、そうすると非常に人数が少なくて済む訳。 出来はともかく、今でもそれは自慢している。
それは安彦さんの作業が早すぎるというのもあるのではないですか?(笑)
安彦さん

それはこの前、井上俊之さんにも褒められたけどね(笑)
ただ、無駄な人手をかけるよりもね。

その代わり時速は上がらないんですよ。制作進行には随分文句を言われたけどね。
週に20カット、30カットを「倍に上げて」って言われても、人手が無いから上がんないわけですよ。
ただ、そのやり方だとイーブンペースで続けて行ける。 そうするとそうは遅れない。
いっぱい無駄に人がいて上がらないよりも、イーブンペースで流れていればいつかは終わる。

AIの特徴として作業が早いという点があります。
昨今のテレビ、劇場アニメ制作だとどうしても制作期間が数年単位でかかってしまい、そのハードルのため作品制作に気軽に着手できないという点があると思っています。
そこにツールとしてAIを活用する事で、制作スピードを速め、少人数で様々な作品を手掛ける事ができるようになったり、逆に作画部分はある程度AIに任せて、ストーリー
を中心に見せたいというような作品作りもできるようになるのではと思っています。
安彦さん

今の人が気の毒だなと思うのは、とにかく時間がかかってしまっているから、いろんなことをやろうと思ってもできないでしょ? 1本3~4年は普通で。
昔の作品だと放送前の3~4ヶ月から実働に入って放映。で、放映中は追っかけられるから、「わーっ」と訳が分からなくなっている内に終わるっていう。今は無いだろうと思うけどね。
今は5年先でも「え?」って思わないでしょ?

あと、話が変わっちゃってアレなんだけど、AIは「嘘」をつけるの?
レイアウトとか。手書きは「嘘」つけるんですよ、パースとか。
皆パースラインを引きたがるんだけど、「いらないって。引くなそんなもん」っていうのが僕の考え。
有名な話で黒澤明監督が映画を撮る時に「あの家がいらない、壊せ」っていう逸話があるけど、アニメの場合は壊さなくても描かなければいいんだから。
必要な場面を切り取って、圧縮して、歪曲しちゃえば良い訳ですよ。

あるテレビ番組が取材に来た事があって、カメラを張り付けて僕の仕事を撮っているの。 若い子たちが3日くらい張り付いていたことがあったんだけど、「退屈してねぇ?」って聞いたら「面白いです。特にさっきのコマが面白い」っていうわけ。 でそのコマが何かというと、ある民家に外から来たヤバそうな奴が押し入っていくというコマだったんだけど、それを俯瞰で描いていたら「どうしてあんな絵が描けるのか?」って。 「良く収まりますね」っていうから「収めたんだよ」って言って。 天井の梁をなめて、家の人がたじろいでいるっていう。いるところにいてもらわなきゃいけないし、ここに梁が1本欲しいなと思ったら描けばいいわけ。それを気に入ってくれた。

それって僕的には当たり前なことで、必要なものを必要な枠の中に入れたってだけなんだけど、それをパースとか空間にこだわっていたら入らないわけですよ。どうしてもこの人がはみ出るとか。

よく「壁なめ」とかカメラを壁に埋め込んだり、「地ベタなめ」っていうのもあったり。
本当はそんなことはありえないんだけど、絵ならできる。

AIってのはそういった嘘はつけるのかね?

ちらかというとAIは「嘘」をつける側で、嘘がつけないのはCGになるかと思います。
なので、CGとAIを組み合わせると実はすごく相性が良いです。
安彦さん

前にある会社さんに行った時に、背景のパースを測っている人がいた。道具を当てて、「この背景はパースが狂っている」ってぶつくさ言いながら。
その時「そんなことしなくてもいいんじゃないの?」って言ったんだけど、そのためのスタッフもいるって。

以前、小林七郎さんに何度か講義をしてもらったことがあるんだけど、人間の眼っていうのは魚の眼、魚眼に近いんですよって。
だからパースを引くって時に、機械的に引くと一点集中になるっていうんだけど、実際に見えているものはそうじゃない。決していい加減に描くわけではないけど、基本にあるのは「人間の見る目は魚眼なんだ」と。そうじゃないと高層ビルとか縦パンできない訳だから。だから絵で誤魔化す訳です。だからラインを引いて安心していてはだめなんだと。
逆に「嘘」をつけば現実にはあり得ない構図を取れるんだという。

それでいうと、3DCGより、AIは感覚的かもしれないです。
 いろいろとお話を伺ってみていると、AIをテーマにしたお話のところなんですが、クリエイターが表現したいものというのは「CGやAIといった新しい技術を使わなくて
も表現できるのではないか」と思ったりもしています。
安彦さん
できると思うね。ただ(新しい技術に)手伝ってもらえるなら手伝ってもらえば良い。
新しい技術というのはあくまでサポートツールであると。
安彦さん

息子がアシスタントをしてくれているんだけど、息子にやってもらうのは背景とトーン貼り、あとは宇宙空とか。(自分で)宇宙空に宇宙船描いたりとかはうんざりしちゃって(笑)
「それはやって」と息子に頼んでみたり、そういうのをやってもらえたりすると重宝するよね。

…そうか、AIは「嘘」つけるのか。

「嘘」はつけると思います。ただ無自覚にやっているのが現状かと思います。
 なので、審査するのは人間がやらないといけない点はあると思います。
安彦さん
今聞いた話だと、(AIは)非常に利用価値はあるんじゃないですか?
ただ、どこまで(仕事を)取られちゃうか。
アシスタントさんの仕事が取られちゃうのはしょうがないとしても、作家さんが失業するかどうか。 
(AIが)プロットからやるから「あんたいらないよ」ってなるのか。
そうなっちゃうとちょっと問題だけどね。
AIが物語をゼロから生み出すのはまだ苦手かと思います。
安彦さん
監督も演出もいらないってなると「おやおや」って思うけど。
AIはまだ情報の取捨選択はまだ苦手で、不必要な部分も動かしてしまうことが多いです。
例えばモブとかについて、実写映像をAIで変換して使ってみると、動かし過ぎてしまって、画面がうるさくなってしまったりします。
そこに人の意図が入っていないと見辛い映像になってしまいます。
安彦さん
いろいろとCGとかを駆使した凄い映像があって、そのうちアニメーターが要らなくなるんじゃないかって思ったこともあったけど、そうはなってないもんね。
今、世界的には手書きとCGを組み合わせたアニメの作り方が主流になってきています。
安彦さん
CGとかはモーションキャプチャーを使ってやるのがあるでしょ?
僕、あれは非常に嫌なんだけどさ、結局絵描きの創作が無くなっちゃうんだって。
ただお客さんがそれを望んで、「これでいい」っていうんであれば、しょうがないんじゃないかなとは思っている。
最近の若いユーザーさんはゲームの映像に慣れてきていて、アニメだと動かないと感じる人も出てきています。
安彦さん

「動かないのはいらない」って言われたら「はいそうですか」と退場するしかない。
でも、そうはならないよね。

あと「日本のアニメ」っていうのはどこがいいんだっていうのがね、世界に冠たる日本アニメっていうのは何か。
その2コマ打ち、3コマ打ちの触感という感覚が捨てがたいのだとしたら、それは何なのだろうかという。
日本アニメに優位性があるとしたら、2コマ打ち、3コマ打ちという手抜き技法が「何か」を醸し出している。

あと、海外の人は口パクを大切にするでしょ?
昔海外と合作したことがあるけど、口パクだけで8枚あった。それもプレレコでね。
口セルを(専門で)やるアニメーターもいてね。
日本のアニメは3枚が主流だけど…よく3枚でやるね笑

実験で、AIを使って音声と合わせて完璧に口パクを併せることをやってみたことがあるんですが、逆に気持ち悪くなって、日本のアニメっぽさが無くなってしまう感じでした。
 AIを使って作ると情報量が増やせて嬉しいように思うのですが、逆に見辛くなってしまって…逆に今はどんどん情報量を減らす方向にしたりしています。

あと、安彦さんにお伺いしたいのですが、AIが批判される点として「学習」という点があります。
ただ、アニメの現場でも行われている写真参考や、絵を勉強するための模写も、同じく参考のものを「学習」したものではあるのですが、それは許されて、AIの学習が
批判される理由は何だと思われますか?

安彦さん

AIの学習姿勢がどういったものかというのは判らないけど、でも「学習」でしょ?
パクリではなく「学習」という。

「学習」っていうのは好みがあるから、全部を吸収するっていう訳ではなく、「あ、ここのところを学ばせてもらおう」というような。
好きじゃないものは取り入れない、技術的に無理なものは取り入れないとかね。

「学習」自体は自然な事だし、基本だと思うけどね。

あとは、アニメの現場だと「影」をつけるなっていう話があるでしょ。 色数が増えるからって。 今はかなりシンプルでしょ?

一時期影を増やす流れがありましたが、今は大分減りました。
 あとは撮影処理で載せてしまうことも増えてきていると思います。
安彦さん
「学習」して取り入れたんだけど、あえて捨てる、いらないとかね。 そういったこともチョイスできるのかなって。 なんでもかんでも取り入れるとうるさくなっちゃう。
はい。AIを使ったアニメ制作だと「捨てる事」が重要になってきています。
 放っておくとどんどん情報量が増えてしまうので…。
安彦さん
…なんか話を聞いていくと、(AIを活用することに)何の問題もない気がするね。
今問題なのは、使う人間によるところが大きいと思います。
 悪用しようと思えば、安彦さんの絵を学習させて安彦さんっぽい絵柄で出力とかもできてしまいます。
安彦さん
AIの絵描きとかAIの演出家が、いいとこどりのAIキャラクターを作ってくるということはあるのかしら?
可能性はあると思います。
 ただ今は悪用する人のせいで、真面目に活用しようとする人の風当たりが強くなっていて、チャレンジする人が止めてしまったりする状況が出てきています。
 今回のプロジェクトではそういった風向きも変えたいと思っています。
安彦さん
いいんじゃないですか。 良いものができて、例えばAI作家が出てきて、生身の人間が「負けてたまるか」と切磋琢磨するってのが好ましいんじゃないかね。 それで「ああ、仕事取られちゃった」って人がどれくらい増えるかね。 作家と名乗っている人がみんな失業しちゃったら、非常にディストピアになる(笑)  まあ、そこまでは行かないんじゃないのとは思うけど。
今回のプロジェクトでは、基本的にはAIには手伝いをしてもらうというか、アニメ業界の課題に対して人とAIが協力しあって解決できないかなということだと考えています。
安彦さん

むしろ遅いなって感じがして。
四半世紀ぶりにアニメの監督をやって思ったのが、(アニメの制作)「案外変わってねぇなぁ」って。

紙じゃなくてタブレットに描くとか、タイムシートについても紙じゃなくて、モニターで見るとかっていうのは全然構わないと思うんだけど、手作業として描くとか、あの欄外に数字としてシートを入れるというのは、多分無くならないとは思うけどね。

手作業って結構凄いなって思うんですよ。 ちょっと話がズレちゃうけど、将棋でね、コンピューターの棋士に人間のプロの棋士が負けたって結構ニュースになったけど、あの時に世間では「コンピューターすげぇや」って言ってたけど、僕は逆に「棋士の頭ってそんなに凄かったんだ」って。 あれだけ将棋ソフトの開発に手間をかけて、電気もいっぱい食っている中で、それに生身の棋士が太刀打ち出来たんだって、棋士ってそんなに凄かったんだって思ったけど、世間ではあんまり言わなくて。 「負けた負けた、コンピューターが勝った」って。

それでコンピューターが強かったとして、コンピューター対コンピューターの試合を人が見たいかというと、あまり見たくないのではと感じます。
人が見たい物っていうのは、理論的に最強なものが見たいというよりも、あくまで人と人の対決ではないかと。
アニメとかも突き詰めると、人間、誰かが作った作品だから観たいのではないかと思っています。
結局は作品を通して、作者の思いや、作者とコミュニケーションを取ることを望んでいるように感じます。
安彦さん

ローテクなものが…まあ滅びていくものもあるんだけど、しぶとく残るものもあって。
紙も残るだろうし、音楽も最近はレコードが伸びてきているんでしょ?

便利でいいんだったら、タワマンでスマホ1個置いて「幸せだ~」って言えればいいけど…それはリッチじゃないだろって。

最後に。今のAIというのは、良くも悪くもツール、技術という立ち位置のものかと思いますが、安彦先生が今AIに手伝ってほしい、サポートして欲しいということは
ありますでしょうか?
安彦さん

本業の漫画家の方では特にないんだけど…面倒くさいけど背景も描くしね。

ただアニメーションの場合は、人手が足りないなら中割とか手伝ってもらえたらいいのになぁとか、モブとか通行人とか、学園ドラマの教室のその他大勢とか、やってくれるなら頼めばって気がするけどね。
ただ情報量が多いと気づまりして辛そうって、いらぬ心配をしてしまう(笑) 

自動で色を塗ったりするのも良いんじゃないですかね。

時代が変わるにしても、もうこっちは年だから変わってどうしようって心配がないのが気楽というか、良かったなぁって(笑) 生きている間は紙の仕事は残ると思うしね。

プロフィール

安彦良和(やすひこ よしかず) 漫画家、アニメ監督、イラストレーター。

1947年北海道生まれ。 TVアニメ「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザイン、アニメーションディレクターとして注目を集める。
1989年公開の劇場アニメ「ヴイナス戦記」を最後にアニメ業界から身を引き、漫画家として活躍。
1990年「ナムジ―大國主―古事記巻之一」で第19回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞。2000年「王道の狗」で第4回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。2012年「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」で第43回星雲賞(コミック部門)を受賞。
2015年には自身がマンガ原作者であるアニメ「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」にて25年ぶりにアニメ業界に復帰し、総監督を務めた。